アメリカの同時多発テロをテーマに描かれた小説です。作家はドン・デリーロ(Don DeLillo)。買う前は存じ上げなかったですが、アメリカ文学最大の作家と評されているようです。
文体は硬質で、短く区切られた文章ですが、読む難易度は高かったです。書いてあることが分かりにくいということはないのですが、主語があんまりないから?か、だれのどのあたりのことを書いているのかが、ちょっとわかりにくかったりします(時系列もおそらく行ったり来たりしている)。
社会的なテーマを取り扱った作品の多い作家らしく、わりと期待値は高かったようで、一方で本作の内容は同時多発テロのことよりも、同時多発テロの前後の人々の機微の描写が中心なので、そのあたりは賛否両論もあったみたいです。
個人的にも同時多発テロを描いた作品と紹介されるとちょっと違和感はありますが、一方で、あの事件が与えた衝撃については、アメリカのリアルな日常が異化されたようで、作品としては面白かったです。
事件のあったビルから逃れるときに思わず知らない人のスーツケースを持って帰ってしまう男、そのスーツケースとの持ち主との不倫関係、だれにも言ってはいけないビル・ロートンという名前(子供たちが想像したビン・ラディンの空想上の名前)、メディアに出た堕ちていく男をパフォーマンス・アートで再現する男。と、描かれるモチーフが人々に与えた不安や混乱を表現されているようで、重苦しいけれど、読み進んでしまう力強さがありました。
ちなみに、テロをおこした犯人側の心理描写もありますので、完全に日常生活だけの作品ということでもありません。
一回読んで理解しきれたと思える作品ではありませんでしたが、重厚な作品もたまには面白いと思いました。
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